①概要
20世紀初頭に誕生した現代物理学の双璧たる量子論と相対性理論は、いずれも従来の物理学の適用範囲を押し広げた。量子論はスケールの面でマクロ世界からミクロ世界(原子など)へ拡張し、(特殊)相対性理論はスピードの面で静止(相対速度ゼロ付近)から光速度へ拡張した。全く土地勘が働かず開拓精神が必要だった量子論と比べて、相対性理論は伝統的で成功実績のある古典物理学(ニュートン力学とマクスェル電磁気学)に孕む諸問題をどのように解消できるか…という観点から構築された。量子論は無(0)から有(1)を生み出す苦悩に対して、(特殊)相対性理論は90点を100点にする苦悩だと例えると、発見プロセスの質の違いを強調できるかと思う。
以下、相対性理論の構築に関連する各項目を一覧にして整理する。
理論名 (完成年) |
古典物理学 | 相対性理論 | |||
ニュートン力学 (1687年) |
マクスウェル電磁気学 (1865年) |
特殊相対性理論 (1905年) |
一般相対性理論 (1915-1916年) |
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発明者 | アイザック・ニュートン | ジェームズ・クラーク・マクスウェル | アルベルト・アインシュタイン | ||
重要な書物・論文 | プリンキピア | 電磁場の動力学的理論 |
①運動物体の電気力学(9/26) ②物体の慣性はその物体の含む エネルギーに依存するか(11/21) |
①光の伝播の重力の影響(1911年) ②一般相対性理論(1915/11) ③重力場の方程式(1915/11/25) |
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原理① (物理法則の普遍性) |
ガリレイの相対性原理 | - | 特殊相対性原理 | 一般相対性原理 | |
原理①の意味 |
全ての慣性系で 力学法則は 同じ形式で書き表される |
- |
全ての慣性系で 物理法則は 同じ形式で書き表される |
全ての座標系(慣性系+加速度系)で 物理法則は 同じ形式で書き表される |
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原理①の 検証 |
座標変換の呼び方 座標変換の式 |
ガリレイ変換 位置:x'=x-vt 時間:t'=t ※絶対空間/絶対時間 |
- |
ローレンツ変換 位置:x'=(x-vt)/(1-(v/c))^1/2 時間:t'=(t-xv/c^2)/(1-(v/c))^1/2 ※相対空間/相対時間 |
一般座標変換 |
座標変換に伴う 各種法則(保存則) への数学的要請 |
ガリレイ変換不変性 |
- |
ローレンツ変換不変性 |
一般共変性 (一般共変の原理) |
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対力学の法則 |
ガリレイ変換に不変 ローレンツ変換に不変でない |
- | ローレンツ変換に不変 | 一般共変性に不変 | |
対電磁気学の法則 対光学の法則 |
- |
ガリレイ変換に不変でない ローレンツ変換に不変 |
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想定する時空座標 |
3次元ユークリッド空間 (x,y,z) ※平坦な3次元空間 |
- |
4次元ユークリッド空間 (ict,x,y,z) ※平坦な4次元空間(ミンコフスキー時空) |
4次元非ユークリッド空間 ※曲がった4次元空間 ※16変数をリーマン幾何学で対応 |
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原点からの距離sの計算 |
s^2=x^2+y^2+z^2 ※ピタゴラスの定理 |
- |
s^2=c^2t^2+x^2+y^2+z^2 ※ピタゴラスの定理 |
ds^2=∑gμνdxμdxν ※gμν:計量テンソル(基本テンソル) ※添字μ,νは1-4としgμνは16変数を含む |
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速度合成則の式 |
w=u+v ※超光速を許容 |
- |
w=(u+v)/(1+(uv/c^2)) ※常に光速度以下 w=(c+w)/(1+(w/c))=c ※片方vがcなら合成後はc |
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重力ポテンシャルの式 |
U=GmM/r ※万有引力の法則 |
- | - |
gμν ※リーマ幾何学の計量テンソル(基本テンソル) ※アインシュタインの重力ポテンシャル |
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原理② (光速度について) |
なし |
静止エーテルに対する 絶対速度 |
光速度不変の原理 | ||
原理②の解説 |
・光速度は無限で瞬時に 伝播する ・基準系となる慣性系に よって光速度は変動 |
光速度の理論式 c=1/(εμ)^1/2
光源の移動速度に 無関係 |
光源の移動速度、観測者の運動状態に関係なく 全ての座標系で光速度は常に一定 |
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光速度評価の基準系(座標系) |
慣性系 (特に太陽基準系や 地上基準系) |
宇宙重心系 または静止エーテル系 |
全ての座標系、または指定不要 | ||
原理③ (重力について) |
- |
- | - | 等価原理 | |
時間のズレ |
静止系の1秒間は別の慣性系では 1-{1-(v/c)^2}^(1/2)秒遅れる
※光速度移動では時は止まる |
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物質の質量mの式 |
m0(静止質量) ※速度に依存しない定数 |
- |
m=m0/(1-(v/c)^2)^1/2 ※m(動質量)は光速度ほど増加 |
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運動体の運動量pの式 |
p=m0v |
- | p=mv=m0v/(1-(v/c)^2)^1/2 | ||
運動体のエネルギーEの式 |
T=(1/2)m0v^2 ※静止エネルギーの概念なし |
E=(E0^2+p^2c^2)^1/2 ⇒vが極めて小さい場合 E=E0+T ※静止エネルギーが登場 |